2017年09月01日

天盆

『天盆』
著:王城夕紀(中公文庫)

蓋の国を動かすのは、盤戯「天盆」を制した者。人々は立身を目指し研鑽に励むが、長い間、平民から征陣者は出ていない。そんな中、貧しい十三人きょうだいの末子・凡天が激戦を勝ち進み――少年が歴史に挑むとき、国の運命もまた動き始める。圧倒的疾走感で描き出す放熱ファンタジー!
「BOOK」データベースより


全く存じ上げない作家さんだったのですが、店頭でタイトルに惹かれて何気なく手に取り、1〜2ページ試読してみて、やっぱり妙に惹かれたので購入しました。

久々の大当たりの作品でした。
もう絶賛しかないです。
世界観も、ストーリーも、登場人物も。
夢中で読んで、文字が読み辛くなってようやく周囲が暗くなった事に気付いて電気を点ける、なんて事は本当に久しぶりでした。

“天盆”というゲームが中心となったお話なのですが、その描写が素晴らしかったです。
ルールだの駒の動きだのを、くだくだと説明されでもしていたらウンザリしたと思いますが、おおよそ将棋のようなゲームであろうと推測できる程度の説明に留めてあり、その辺りの匙加減が大変巧く、何となく理解した気になれたほど。
例えるなら、碁はサッパリにも関わらず、物凄く楽しく読めた『ヒカルの碁』のような。

登場人物達もキチンと個性が描かれていて、家族が多い割に、無駄な登場人物はいないように感じました。
凡天は捉えどころがないのですが、たまに話すと子供らしくて可愛い。終盤の十偉とのシーンが特に可愛らしくって。
何だかんだで十偉も非常に人間らしくて素敵でしたし、一龍は貫録があって頼もしい。いつも一緒の三姉妹は口が達者で微笑ましかったですし、二秀も捻くれたりしない努力家で応援したくなりました。六麗はちょっと不遇で可哀想でしたが。
個人的には永涯が好きです。こういう高潔な人物は見ていて(読んでいて)とても清々しい気持ちになれます。
少勇は本当にカッコイイ奴でした!!
人として憧れるのは、こういう人だなぁって。

ストーリー自体は王道な展開なのですが、登場人物達の個性と早いテンポで、全く飽くことなく、むしろ完全に引き摺りこまれました。
簡潔明朗な文体でセンテンスも短く、“天盆”の対局中の息詰まるような緊迫感と高揚感、そして“天盆”の局面の大きな流れがヒシヒシと感じられました。こういう心理的な空気感の表現は、小説ならではの表現だなぁと改めて感じました。
細かなエピソードで曖昧な書き方のまま、といったところもいくつかあるのですが、それも些末な事と許容できる程度でした。脱臼とか封手とか。

結末も素晴らしかったです。
好みは分かれるであろう結末だとは思いますが、ちゃんと世界観が保たれたままの終わり方だと感じました。
勿論彼らのその後は非常に気になりますが、あの勢いのまま、あの熱狂のまま締め括られたからこそ、胸一杯の余韻になったのだと思います。
そして最後の一文の泣けること、笑えることと言ったら。

久しぶりに読書の楽しさを心から味わえた作品でした。
幸福感で一杯です。
posted by ミクロン at 23:00 | Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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